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東京猫物語 第八十七話 [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語
第八十七話:飼い猫との暮らし 壱 就寝中-②

タワー猫

(昔の話。思い出となりました)

こんな事もあった。
夢現の中、体が妙にだるい。いや、下半身が重いという感じだった。
はっきり目が醒めると、未だ夜中。
掛け布団からはみ出した私の片足に、猫がしがみついている。
私の膝から足首に掛けて、四足でがっちり組み付いている。
猫が振り向いた。
目が合うと、猫は大きなまん丸の目を更にひんむき、鼻から眉間に皺を寄せた。
恐ろしい顔だ。
それから猫は口をあんぐり開き、私の足の指に噛み付こうと歯を当てた。
白色の鋭い犬歯が見える。

恐ろしい牙だ。
無理に剥がそうとすれば、鋭い爪が私の脛に突き刺さるだろう。
そうかと言って、このままでは私の足の指がかじられてしまう。
「いっ いっ いたいっ いたいっ」
私は大声で叫んだ。
猫は怯まない。
「いたいっ いたいっ いたいっ」
私は更に声を張り上げた。
「いたいっ やめろっ」

猫は離れた。
しかし、尚も私の脛に未練を残して飛び掛って来ようとする。
私は枕を取って盾にした。
「どうしたの?」
私の大声で起してしまったのだろう。階段下から家族の声が聞える。
「何でも無い。猫が噛み付いてきただけ」
何でも無くはない。夜中に大騒ぎだ。
「そんなに大声を出して、御近所に迷惑でしょう」
家族に窘められ、私は呟いた。
「そんな余裕は無い」

猫はいつもの猫に戻った。
隣の部屋のキャットタワーに登って、コロンと仰向けになっている。
私の関心を引く時の格好だ。
私は部屋の灯りを点け、冷静になって足の指と脛を丹念に調べた。
傷は無い。爪の痕も無い。歯の痕も無い。
「痛い」と思ったが、実際にはそれ程痛くは無かったのだ。
恐ろしい、痛いと思う気持が幻覚を与えていた。
その後、何度となく同じ事が繰り返されている。
猫は遊んでいるだけだ。
それでも、私は恐怖と不安を払拭することができない。
今のところ、大声を出すしか猫の悪ふざけを止める術は無い。
(続く)

以上
管理人
2017.2.5

「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。
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