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東京猫物語 第七十九話ー⑮ [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語
第七十九話 里親会弐ー⑮

私と麻雀屋さんは黙って食後のお茶を飲んでいました。
残飯を使い回した女性会員が、イヤホンで聴いていた競馬中継の結果を他の会員に大声で伝えています。
「はずしちゃったわ。来週は固いから本命一本買いよ」
どうやらこの会員は熱心な競馬ファンのようです。
「走れなくなった競争馬が、どうなるか知っている?」
麻雀屋さんが「うんざり」という顔で私に囁きました。
引退後に安穏と余生を送れる馬はごく少数だと、私も聞いています。
「あの人はこの会の顔ではないのよ」
私たちの会話を聞き付けた若い女性会員が、にこりともせずに話し掛けて来ました。
「心に思うことがあるでも無く、気の利いた趣味も無い。動物を通じてしか人とお付き合いできないのよ。他に友達もいないし、休日はすることも無いから競馬場か、ここへ来るしかないの。たいして用も無い時だって、わざわざ車で一時間も掛けてここへ出掛けて来るのよ。私たちと一緒にされては困るわ。迷惑なのよね。私たちが見ていないと、素性も分からない人にだって平気で猫を渡そうとするのよ。お薦めですよ、とか言って。バーゲン・セールじゃないのだから、勘弁して欲しいわよ」
若い女性会員はそれだけ言うと、私たちに背を向けてスーパーマーケットの方へ向かいました。
「どうも勝手が違うのよね。ここは。それに、さっきから気になっていたのだけど、春とは言え直射日光に長く当たっていると暑いくらいでしょう?ほら、あの猫、舌出してヘー、ヘー、肩で息をしているわ。端っこのケージには日除けも無いし」
麻雀屋さんはきじ虎仔猫の入っているケージを指差しました。
(続く)

以上
管理人
2015.10.10

「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。

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