SSブログ

東京猫物語 第八十二話ー⑤ [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語
第八十二話:猫婆狸婆ー⑤

「不妊手術には同意してくれたのよ。でも、お金の話を持ち掛けたら、急に耳がよく聞えなくなっちゃったのよ」
看護助士おばさんが私の問いに答えました。
「え?バアサン妹は耳が悪かったの?」
私は驚いて尋ねました。

看護助士おばさんは大きく首を振った後、溜息をつきました。
「こんなことはなかったはずなのにね。なんだか呆けたみたいになっちゃって。私たちが話し掛けても分からないみたいで、ただ頷くばかりなのよ。しょんぼりとした風で目は虚ろだし。しまいには、そそくさと帰り支度をしてお店を出て行こうとするので、それ以上何も言えなくなっちゃったのよ」
看護助士おばさんはその時の様子を丁寧に説明してくれました。
「ええっ?バアサン妹は、常日頃、自分の財布の中身を一円単位迄覚えている程頭はしっかりしているのでしょう?記憶力も大変良いと、こないだ聞いていますよ」
私は順々に皆の顔に目を向けました。
麻雀屋さんたちも首を振って苦笑するばかりでした。
(続く)

以上
管理人
2016.06.26

「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。

Copyright : All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
当ブログに掲載されている内容の無許可転載・転用を禁止いたします。

共通テーマ:ペット