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第八十二話ー① [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語
第八十二話:猫婆狸婆ー①

猫町公園から細い道路を隔てた北側に、七階建ての美しいマンションが公園を見下ろすように建っています。マンションの外壁全面には、ほんの少し桃色がかった暖かみのあるシルバーグレーのタイルが貼られてあります。
公園に臨む各戸の南側窓には、ブラウン色調のスモッグガラスがはめ込まれてあります。少しだけ外へ突き出ているバルコニーも、建物の外壁に溶け込んでいます。竣工から二十年を経た今も、外観からは老朽化の兆しは全く見て取れません。マンションから最寄りの地下鉄の駅迄、早足で僅か五分です。国道と大通りからは距離があり、マンションの住人たちは便利な都心に暮らしながら、静かな環境の中で公園の景色の移り変りに四季を感じ取ることができます。

このマンションの五階に老姉妹が暮らしています。
姉は八十歳、妹は七十七歳です。二人とも足腰は丈夫と見えて、自転車で上るには少しきつく感じられる坂道でも毎日平気で歩いています。
姉は少し腰が曲がり、顔と体型はふっくらしています。いつも柔和な表情、性格はおっとりしていて人が好さそうです。
対照的に妹は背筋がぴんと伸び、痩せて頬がこけています。普段から眼光鋭く、険しい表情を崩しません。証券会社で抜群の営業成績を挙げて一財産築いたという半生が、近所で「やり手ババア」などと噂される所以です。怒ったような顔は、昔の百戦錬磨の名残かなとも思わせます。
(続く)

以上
管理人
2016.5.22

「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。

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