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東京猫物語 第八十話ー⑤ [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語
第八十話 里親会の顛末 壱ー⑤

「何で早く言わなかったの!」
看護助士おばさんが絶叫しました。
会長さんには「元気に暮らしている」と里親女は釈明していたものの、実の所、仔猫は既に部屋から逃げ出していた次第です。
「月曜日の夜、私が留守の間に近所の姉がクリーニング屋から引き取って来た洋服を届けてくれて、ドアを少し開けたままにしていたの。それで、仔猫がするするとドアの隙間から飛び出してしまったの。私が仔猫を飼い始めたことを姉は聞いていなかったので、気を付けなかったから。姉と近所を捜したけれど、一週間経った今も仔猫は見つからないの」

新しい家に連れて来られたばかりの仔猫は、決して外へ出すべきではありません。
仔猫が逃げ出してから、もう一週間が経過しています。
「どうして会長さんが電話した時、猫がいなくなったとすぐに言わなかったの?」
看護助士おばさんは同じ質問を繰り返しました。
里親女が口ごもって明確に答えないので、看護助士おばさんは興奮して里親女に掴みかからんばかりになりました。麻雀屋さんと私が二人の間に入り、看護助士おばさんを抑えました。
「早く言ってくれれば皆で探して、ミイちゃんは見つかったかもしれないじゃないの」
看護助士おばさんは口から沫を飛ばしています。
「ほらね。結局こういう風になると分かっていたから何も言わなかったのよ」
看護助士おばさんとは対照的に、里親女は冷静でした。
嵐の海の底の貝。里親女はできるだけ余計な事は喋らず、じっと嵐が過ぎ去るのを耐えているかのようです。
(続く)

nice表示について、
付して頂いたいくつかの表示が消えてしまう事象が何度かありました。
ネット痴の私には原因がわかりません。ご迷惑やご不快な思いをおかけしないよう
判明まで表示を「しない」に設定いたします。ご了解ください。

今年もわずか一日となりました。
生きていくことは大変です。歳をとるほどに実感します。
車谷長吉さんもよくそうおっしゃっていました。
そんな中でも、それぞれ誰もが幸せを見いだせるといいですね。
お訪ねくださった皆様どうもありがとうございます。
皆様のブログも楽しませていただきました。
どうぞよいお年をお迎えください。
以上

管理人
2015.12.31


「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。

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