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東京猫物語 第七十九話ー③ [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語 
第七十九話 里親会弐ー③

スーパーマーケットの開店と同時に押し寄せた冷やかしも含めて、里親会場は大人や子供、関係者たちでごった返しています。看護助士おばさんの仔猫に譲渡希望者が付いて交渉していたことに私たちは気が付きませんでした。
「始まって間も無いのに、もう素敵な飼主さんが決まりましたね」
「本当に良かったですね」
私と麻雀屋さんは、代る代る祝福しました。
「とても感じ好さそうな、いい人に貰われたわ」
看護助士おばさんは嬉しそうに笑顔で応えました。
それから、看護助士おばさんは「用があるから」と言って、私たちを残して会場を後にしました。
「その場では渡さないと思っていたけれど」
看護助士おばさんの背中を見送りながら、麻雀屋さんがぼそっと小声で呟きました。

「え?何のこと?何か問題でもあるの?」
私は麻雀屋さんに発言の真意を正しました。
麻雀屋さんは辺りを憚るかのように視線を左右に振り、私の問いに答えました。
「猫の譲渡の話を聞くと、知人縁者でもない限りは自宅へのお届けが絶対原則みたいよ。かわいがることが目的ではない人も来るし、とても飼えない人も来るから。猫を渡す前に希望者が実際にその住所に住んでいるのか、猫を飼える生活環境なのか、飼う意志は揺るぎないものなのか、よく確認する必要があるそうよ。その場で見て衝動的に猫が欲しいと申し込んでも、時間が経つとやっぱり大変だからいらないと、心変りする人もいるからね。よくいるらしいのよ。そういう人たち。物の遣り取りではないから、飼主候補は冷静に自分に向き合う時間も必用なのよ」
麻雀屋さんの話を聞き、私は少し不安になりました。
「この辺りの郊外から来る人たちなら、心配無いのでは?」
自分自身を無理に納得させるように、根拠の無い言葉が私の口から漏れました。
(続く)

以上
管理人
2015.6.20

「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。

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