SSブログ

東京猫物語 第七十八話 [「東京猫物語・外猫観察記」(管理人著・猫のお話)]

東京猫物語
第七十八話:里親会 壱:

捨てられていたところを保護された猫たち、飼主が諸般の事情で飼えなくなった猫たちの為に、新しい飼主を探して譲渡する動物愛護団体の存在を私は看護助士おばさんから聞いて知りました。
看護助士おばさんの地元の方が主催しているという動物愛護団体は、猫町から電車で一時間程の郊外を拠点に活動しています。その団体は日曜日にスーパーマーケットの駐車場の隅を借りて「里親会」を開催しています。
「何?それ?」
「里親会」という聞き馴れない言葉に接し、私は看護助士おばさんに尋ねました。
「新しい飼主を探して猫を託すのよ。猫を連れて来て、飼育を希望する人たちとの面会の場を設けているの」
何度となく説明を繰り返してきたのでしょう。看護助士おばさんは簡潔且つ淡々と私の問いに答えてくれました。

その夜、私は看護助士おばさんから紹介された団体の代表者に電話を掛けました。
「猫の事でご相談させて頂きたいのですが」
私が用件を切り出そうとすると、甲高い声の男性がせわしそうに電話口に出ました。
「猫は預かれませんよ。保護している猫はたくさんいて、里親へ出す順番待ち状態なので。とにかく大変な状態ですから」
代表者は私の話をろくに聞かぬ内に、いかにも迷惑そうに早口でまくし立てて電話を切ろうとしました。
私は慌てて看護助士おばさんの名前を上げ、「御紹介頂いた者ですが」と告げました。すると代表者は急に丁寧で落ち着いた口調に変わり、自分がボランティアの動物愛護団体の会長であり、看護助士おばさんとは数年前から懇意であると話してくれました。私はモモちゃんの飼主を探すに至ったいきさつと、モモちゃんの色柄、大きさ等、身体に関する詳細を説明しました。
会長さんは、モモちゃんが不妊手術もしないで飼猫から殖やした仔猫ではないことを私に確認しました。
「必ずしも飼主が見つかるとは限らないけれど、次の日曜日の里親会に連れていらっしゃい」
最後に会長さんは里親会への参加を快く了承してくれました。

翌日、私は麻雀屋さんたちに前夜の会長さんとの電話内容を伝えました。私たちは相談した結果、モモちゃんを雀荘の事務所に一時保護してノミ取り薬を付けたり、ブラシを掛けたりして、体を綺麗にしてから日曜日の里親会に連れて行くことにしました。
「早い方がいい」
翌日、私は自宅から持ち出した折り畳み式のアルミケージを雀荘の事務室に運び入れました。
昼休みに麻雀屋の年配の女性従業員さんが電気屋さんの倉庫からチイスケのキャリーバッグを借りて来たので、私と看護助士おばさんが付き添って魚屋さんの裏通りへ向かいました。
現場に到着すると、モモちゃんはすぐに見つかりました。首根っこを掴んでキャリーバッグに入れようと、私たちはモモちゃんの背後から近付きました。
異常を感じたのでしょう。モモちゃんは何時にもまして警戒していました。
モモちゃんは誰にも手を触れさせることなく、ビルの隙間へ逃げ込んでしまいました。
「仕様が無い。週末迄未だ日があるから、改めて出直しましょう」
私の提案に二人は頷きました。
一日間を空け、金曜日の夕方に私たち三人は再び裏通りへ向かいました。
運送屋のおじさんが私たちに気が付き、事務所から通りへ出て来ました。運送屋のおじさんはモモちゃんを日頃からかわいがっていて、飼主探しの趣旨に賛同しています。ぎごちなくモモちゃんに近付こうとしている私たちを尻目に、運送屋のおじさんはいとも容易にモモちゃんを捕まえ、キャリーバッグの中に収容してくれました。モモちゃんは人にシャーッシャーッ凄んだり、引っ掻いたりする猫ではありません。運送屋のおじさんにとって、モモちゃんの収容は手に余る作業ではありませんでした。
初めて自由を奪われたモモちゃんは、キャリーバッグの格子窓に鼻先を押し付け、「ミィミィ」不安そうに啼きました。
私たちはモモちゃんを雀荘の事務室に連れて行きました。モモちゃんが戸外へ飛び出さないように、事務室のドアは閉められました。
看護助士おばさんが慣れた手付でアルミケージの底にタオルを敷き詰め、モモちゃんをその中に移しました。モモちゃんはおとなしく看護助士おばさんの手に抱かれていました。看護助士おばさんは、底の浅い小さな真四角の紙箱をケージの隅に置きました。紙箱には細かい檜の砂が深さの半分程入れてあります。モモちゃんはじっと座って、看護助士おばさんの手が自分の傍を通るのを見つめていました。モモちゃんがトイレに行きたくなりそわそわしてきたところで、紙箱をモモちゃんのお腹の下に入れます。幸いモモちゃんは自分が寝そべっているタオルは汚したくないらしく、紙箱で一度小用を足した後は毎回トイレとして使ってくれるようになりました。狭いケージの中だから、トイレを使っただけかもしれません。トイレの躾歴が浅いモモちゃんですから、粗相してしまう不安は拭いきれません。
(続く)

以上
管理人
2015.5.30

「どこにでもいるような飼主のいない猫たち。彼らのことをよく知るほどに、きっと素敵な猫に魅せられるはず。飼主のいない外暮らしは、猫たちにとって決して楽ではありません。どうぞ、懐いたらお家に迎えてくださいね」

*東京猫物語は1998年から数年間、東京都心の某公園で猫たちを観察した体験に基づく実話です。

Copyright : All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
当ブログに掲載されている内容の無許可転載・転用を禁止いたします。

nice!(20) 
共通テーマ:ペット

nice! 20